長期的視野に立った問題解決を目指すのが学問

 

行政経営にイノベーションを起こす経営情報システム

時代のニーズはあるものの、まだ進んでいない分野に先鞭を着ける研究があり、それが地元の課題解決につながるとしたら、取り組んでみたいと思う人は多いのではないでしょうか。経営という分野に向けては多様な学問が存在しますが、坂本先生の専門は経営情報システム。コンピュータシステムを導入し、企業等の経営にどう役立てるかを研究する学問です。現代の企業を取り巻く環境は、複雑化、多様化、グローバル化が進行し、迅速な意思決定や効率的な経営管理をサポートするシステムが不可欠となっていますが、坂本先生はそれを行政に展開する方法論を研究、実践しています。先生は本学に赴任するまでは、大手電気メーカーの製造工場における生産管理システムなど、企業の経営情報システムの開発に携わってこられましたが、高知ではじめて行政へのコンピュータシステムの導入を経験し、企業との違いに驚き、それがきっかけで行政経営システムの研究を始めました。

 

 

「組織の特質の異なる民と官では、経営の意味が異なるため、民間企業で成功したシステムをそのまま行政に適用することができません。企業の場合、基本は営利の追求が目的です。仕事の効率を上げるため、現行のシステムをどう改善すれば良いのかは、日ごろの業務を通じてノウハウが蓄積され、経営モデルが存在するため、それを利用してシステム設計を行うことができます。また、企業の担当者はその道のエキスパートなので、その人のやり方を抽出しシステム化を行うことも可能でした。これに対して行政の究極の目的は人々の幸福です。経済、社会、文化など、状況に応じて様々で、ひとつの目的に集約することができません。どんな状況にどんな行動をとれば良いかがはっきりしないため、前例踏襲に陥りやすく、イノベーションが起きにくい環境となっています。したがって、行政に経営情報システムを導入する場合、たとえば水道事業を例に挙げると、安くて安全な水の安定的供給が目的です。そこで日ごろの業務と目的が結びついているかどうかを検証し、目標とする状態の経営モデルを作って提案し、そのモデルに対応したシステムを構築するという工程が必要となります。」

 

システムエンジニアは、通常はシステムの設計や開発などの上流工程に携わる仕事。しかし、行政経営システムにおいては、エンジニアが経営モデルを作成するため、専門性に加えて、法律、組織論、経営学、会計学など、幅広い知識が必要となってきます。こういったスキルを身に付けることはエンジニア自身の強みとなり、これからの時代の要請に応え、活躍の場を行政にも広げることにつながります。行政の現場にイノベーションを起こすことができれば、ひいては住みやすい街づくり、地域活性化への道も開けてきます。

 

 

ランチパスポートの可能性を探る研究

坂本先生が経営モデルを作る時、組織と関連づけてのアプローチを重視します。

行政に経営情報システムを導入する研究においても、民と官の組織の差違を見いだすことが出発点となっています。

また、現在の取組みのひとつとして、話題となったランパスのこれからのあるべき姿を出版元との共同研究の中で模索しています。

「現状を聞く限りでは、コスト面で飲食店と出版社がWin-Winの関係にあるとのことです。飲食店はランパスに協力することで、広告を打つことなしに、店の宣伝ができます。一方、出版社は本が売れることで利益が得られます。しかし、これからの方向性を考える時、会計的なメリットだけではなく、飲食店と出版社という異なる組織が連携する話と捉えると、いままでにない視野が生まれてくるのではないでしょうか。組織と組織の共生の問題であると考えるならば落としどころが見えてきます。共生とは社会の中で適応していくことであり、社会にどんな価値を提供していくかという話に結論づけなくてはなりません」

 

長期的視野に立った地域振興や商業振興を考える

高知県出身で地元愛にあふれる坂本先生。

「高知の食を考える会」や、農政の第三者委員会など、さまざまな活動を通して地元支援を行っています。また、そのような活動を通して常日頃から感じていることがあります。「見た目も派手なイベントをやると、一時は賑わい、地元は喜びますが、長期的に見た時、地元が潤うのかといえばこれは疑問です。ほとんどの場合、集客も経済効果も一過性のものに終わってしまうのが実状です。

私たちの提案する取組みは、派手さは無いですが、長期的視野から見れば、役に立つものであると思います。それはアンケートやヒアリングなど地道な情報収集や統計処理を行い、マーケティング調査を行うことです。マーケットを知ることは極めて重要で、人々のニーズを把握し、それに立脚した戦略を展開していくべきなのに、本県においてはそれが重視されていないように思います。高知はやって駄目なのではなく、やらなくて駄目なケースが多いので、伸び代はまだまだあります。経済においてもマーケティング戦略を持ち込むことで大きな活路が見いだせると思います。

このようにアカデミックな観点から地域を支えるのも大学の使命。

ビジネススクールは知識を教えるところであるならば、大学はもう一歩踏み込んで、知識の使い方を研究し、より親身になってソリューションの提供を目指すところです。地域の方々と膝を突き合わせ課題解決を目指すことができるのは本学ならではの強みではないでしょうか」。

地元を元気にしたい人に、「いっしょにやろう」と坂本先生は呼びかけます。

 

 

 

教員紹介インタビュー