研究や学問は「知りたい」という好奇心をストレートに満たすことのできるもの

 

会計学や会計監査を研究する意義

企業経営を車に例えると、会計監査は安全装置だと上村先生は語ります。

起業や経営を考える時、一般的にすぐに連想するのはイノベーションの領域ではないでしょうか。いかにして技術革新を行い、マーケティングプロセスを経て、漸進的なビジネスを作り上げていくか。それは学問的にも華がある分野だといえるでしょう。一方、ブレーキやエアバックなど安全装置に相当する会計監査の重要性を、上村先生は経営者の視点からこう語ります。

 

「会計用語から派生したアカウンタビリティ(Accountability=説明責任)という言葉があるように、会計学を学ぶことによって、説明能力を身に付けることができます。企業は投資家へ、政府・行政は国民へ、それぞれ説明責任があり、また、個人的なライフワークにおいても、ここ一番の説明能力がないと人は信用されないのではないでしょうか。そして時代はまさに説明責任を要求する流れの中にあります。そうした意味でも、会計学の研究に取り組む意義や社会への貢献度は大きいと思います」

 

仕事も研究も原点は好奇心

上村先生は27歳の時に起業し、FCビジネスに参入しました。空前のバブル景気が終焉を迎え、日本経済は下降トレンドへ向かう時代でもありました。そんな時、起業家やビジネスパーソンの行動は2つに分かれるのではないでしょうか。1つは嵐が過ぎるまで動かずじっと待つ。もう1つは、むしろチャンスと捉え、開き直って突き進んでいく。上村先生は後者でした。

「どうせ今までの価値観が吹き飛んでしまうなら、自分にも出番があるのでは、と考えました」と当時を振り返ります。

ビジネスは成果をあげますが、ある時、これ以上事業を拡大するよりも、同じフレームワークの中でうまくいってない企業を支援する側に回ることを思い立ち、事業の方向性を変えます。その転換期に経営の知識を補充することを目的に、大学の経営学部に入学。修士課程、博士課程を経て大学教員となり、現在もFCビジネスの展開、コンサルティング業務を行いながら研究を続けています。

「“知る”という好奇心をストレートに満たすことができるのが研究だと思います。こうしたらこうなるのではないか、こういう風にネゴシエーションすると相手との関係が築けるのではないか、利益につながるのではないか。すなわちそれを知りたくてやる、自分を試すためにやる、という意味において、私の中では仕事も研究も同じで、両立させることに違和感はありません」

 

コーポレートガバナンスのあり方に焦点を当てる

現在、上村先生が焦点を当てているテーマは企業統治=コーポレートガバナンスのあり方です。

近年、企業や組織において、不祥事や不正問題が相次ぎ、「監査はきちんと行われていたのか?」と疑問に感じることが多くなっています。

まさに監査の質が問われる世の中。上村先生の研究はそこに切り込みます。

「米国では企業に監査委員会が設置され、独立の取締役を入れて、会社が公明正大に不正なく、きちんと運営されているかをチェックするシステムが構築されています。一方、日本では監査役会という別構造の組織があります。人員の半分は社外監査役、あとの半分は名誉職的な立場のいわゆる“身内”で構成されていることが多いです。この体制では会社へ意見や批判などできないのでは、という指摘があり、日本の法律も欧米に習うような流れになってきています。しかし、欧米型の法律が日本に適合するかどうかは疑問です。そもそも欧米の監査人は批判機能を発揮し、企業の内部統制の不備を発見、摘発することを主としています。それに対して、日本の監査人は指導、助言の役割を果たしています。ですから、日本の企業文化を考える時、その会社のことを熟知している人間が監査人を務めることのほうが効率的かつ効果的な情報収集の達成という点から見て重要である、ということが実証されれば流れは変わってきます。全く関係のない人間を会社に入れてブレーキを踏んでしまうことは、日本の企業の進歩にとってマイナスになるかもしれません。日本の企業も実務と共に成長してきました。その中で、監査役会というものを熟成させながら作ってきたのです。したがって欧米型の株主中心のモニタリングシステムに変えていく、監査委員会の設置が当たり前、という考え方は、短絡的なのでは、という思いが私の研究の根底にあります。」

 

 

問題意識こそモチベーションの源泉

「社会人学生」という立場を経験した上村先生。求める学生像として上村先生が思うことは1点だけ。

「問題意識があることが重要です。2年3年のリサーチタスクを設定して、仕事をしながらモチベーションを維持するためには、心に課題を持っている人でないと難しいと思います。それを持ってきてもらえると、いっしょに考えることができます」。

たとえば、企業や組織の財務担当者であれば、現在保有する有形、無形を含めた資産の活用や利益創出の方法を考えつつ、その施策をチェックし、下支えするシステムの研究も想定されます。さらに地域経済の活性化を考える上で重要なのが金融機関と中小企業の関係。

「金融庁は現在、地域の金融機関に貸出を増やす施策に取り組んでいますが、中小企業の財務諸表は公開義務がないため、精度が十分ではなく、実体が不透明なことが少なくありません。そのため担保や保証がないと融資が難しい現状があります。そこで企業を評価する新たな手段の構築が求められます。相手を知るためには実際にサービスを受けてみるということも手段のひとつですが、財務上の数値を努力の結果と将来の改善につながる要素といった異なる側面から見ることができると考えます。融資する側と受ける側、2つの方向からの研究が想定可能です。起業マネジメントコースで、このような地域経済の課題の解決に繋がる研究に取り組む社会人学生が現れると面白いですね。」

企業が開示する財務報告の裏側には、企業の日々の営みと課題解決のヒントが隠れています。

 

 

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