プロジェクトマネジメントはモチベーション抜きに語れない

 

 

渡邉法美先生が、いまスポットをあてている研究は、「プロジェクトにおけるメンバーのモチベーションの向上」です。

「欧米のプロジェクトマネジメントの研究においては、マネジメント技術に重点がおかれ、人と人との関わりに言及したものが少なく、そのことに問題意識がありました」という渡邉先生。

「せっかく人が集まって、新しいことを成し遂げようとするのですから、結果だけではなく、その過程においてもワクワクする高揚感を感じながら仕事ができたらいいのではないでしょうか」

最小から最大まで伸び縮みするモチベーションという要素をいかに引き出すか。そのメカニズムを解明し、一般化できれば、プロジェクトの成功に寄与し、人々の幸せにもつながるのではないかと渡邉先生は考えます。

 

内発的モチベーションか、インセンティブか

モチベーションには内発的モチベーションと外発的モチベーションがあります。前者は心から湧いてくる「やりがい」「働きがい」です。後者は外部から刺激を受けるもので、報酬や昇進といったインセンティブがこれに属します。「産業心理学の分野においてはインセンティブの論理が根強くあります。一方で教育心理学の大家エドワード・L・デシは、一貫して内発的モチベーションの重要性を説いています。私が長年フィールドとしてきた土木、建設の現場においても、『人は報酬だけでは動かない』という場面がたくさんあり、内発的モチベーションをプロジェクトマネジメントの理論に取り入れることは有効だと思います。」

 

内発的モチベーションとリスクマネジメントの関係

渡邉先生は建設業界を中心にヒアリング調査を行い、「いきいきとした企業」の秘密に迫ります。

ある企業はITによる経営革新によって生産性を上げることができました。先端技術の導入は効率化や利益拡大などの側面だけで語られることが多いですが、「モチベーション」という視点で捉え直すと、また違った景色が浮かび上がってきます。

建設現場ではまず測量が大事ですが、旧来の測量機器は二人一組で、トランシットを見て、レベルを見て、角度を測ったりする作業を、ベテラン社員と若手社員がペアで行っていました。この作業では、若手は適切な行動がとれなかったり、ベテラン社員が場を離れると仕事がストップしたりするなど、モチベーションが下がる場面がありました。一方ベテラン社員は、それ以外の業務にも追われるため、残業が多くなり、生産性が上らず、ワークライフバランスも悪くなるなど、モチベーションを下げる要素に溢れていました。

しかし、先端技術の導入によってモチベーションにも変化が現れます。前述のデシは、内発的モチベーションを高める要素として『自律性』『有能感』『関係性』の3つを挙げています。導入した機器は、android端末で写真をとるように、現場の3次元データを取得できるもので、若手が一人で計測することができます。

これによって若手社員の自立性、有能感が満たされ、無用な人間関係の軋轢からも解放され、ストレスフリーで仕事ができるようになりました。ベテラン社員は時間に余裕ができ、ワークライフバランスの満足度もアップしたといいます。少子高齢化が進む地方の現場で、若い人がいきいきと働くことには理由があり、その理由はモチベーション抜きには語れないということがわかります。

さらに、この技術は部分的なものでなく、CADなどの3Dデータと連動させることで、設計、施行までプロジェクトのライフサイクル全体を効率化することができます。「ここまでの基盤の見直しにはかなりの投資が必要で、適切なリスクマネジメントを行う必要があります。他社においては、先端技術の導入の必要性を認識していても、なじみのない技術であるほど、『財務リスクが高い』と判断されるものです。

一方この会社では、ITに精通した常務と、若手の育成に力を入れる専務、それを支持するトップ、というように的確な意思決定を行うことができる人材が揃っていることが強みとなっています。『The biggest risk is to do nothing(最大のリスクは何もしないこと)』とよく言われますが、そういう局面がビジネスの現場には確かにあります。新たなチャレンジの背景には適切なリスクマネジメントがあり、それが社員のモチベーション向上に不可欠だと思います。」

 

最下層の人々の声を聞くリスクマネジメントが重要

渡邉先生の研究室はグローバルに富んでおり、これまでさまざまな国の留学生が学んでいます。

タイからの留学生は、自国の重化学工業地帯の環境汚染問題に取り組み、住民、産業界、行政のリスク認知の違いに着目したリスクコミュニケーションを研究しました。

ガーナからの留学生は、ガーナの気候変動への対応策を模索する中で、知識や情報が多いほど危機管理意識が強くなることから、農民のエンパワーメントを高める支援が必要と分析しました。

中国からの留学生は、藁を燃料としたバイオマス発電において、藁を提供する農家と、発電所の間に仲介者が存在し、農家が仲介者にして不信感を抱くことが原因で、市場の内外で損失を生み出しているという研究を行いました。

「私たちは階層的な意思決定社会の中にいます。その構造を支える最下層の人々の不安は、より大きな規模のブーメランとなって、社会全体に蔓延するものだということがこれらの研究からもわかります。したがって最下層の人々の不安に耳を傾けるリスクマジジメントを行い、人々のエンパワーメントを高め、自律的判断ができるような支援をする必要があります。」

この考え方はモチベーション理論に通じるものであり、さらにその延長線上には人と自然の共生という人類にとっての永遠のテーマが横たわっています。環境システム工学を基盤として、建設と環境の両面からのマネジメントを実践してこられた渡邉先生が、モチベーションの研究にたどりついたのは必然といえるかもしれません。

 

 

 

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