学問は面白いということだけ、強調して言いたい

 

大切なのは「だいたいわかる」こと

 

1966年、日本の経済成長の末期、大学のゼミで訪れた川崎製鉄水島製鉄所(現JFE西日本製鉄所倉敷地区)。初めてみる巨大製鉄所の姿に感銘を受けたと言う岡本博公先生は、のちに鉄鋼業研究、生販統合論研究の第1人者としての地位を築きます。同志社大学で37年間の教員生活、その後に高知へ。そんな岡本先生の考える社会人教育とは?「社会人が大学に来ることは課題を生き生きと発見できるという意味で面白いと思います。自分の取り組んでいる業務が、学問の世界でどこまで解決され、どこからが未解決なのかを知ることができるでしょう。学問をすることによって、わかっていることと、わかっていないことの区別がつきます。そして指導教員との共同作業の中で、わからない穴を埋めていきますが、それでも完全に埋めることはできません。また新しい課題が出てくるからです。このように課題が重層的に発展するのが学問であり、その面白さです。だから私は“だいたいわかった”というのを大切にしています。」

 

現場実証型の研究スタイル

そもそも先生が企業論、産業論の道を選んだきっかけは何だったのでしょう。

「修士論文は企業金融論で、高度成長期、なぜ多くの日本の企業は“借入金累積型”にならざるを得なかったのか、一方、トヨタ動車はなぜ急速に自己金融型に転換できたのか、というテーマでした。『有価証券報告書総覧』など、企業の公表資料をあたって、いろいろ分析し、共通の部分と異質の部分を発見し、論理をつくってまとめました。やり終えた時、自分はやはり金融は向いていないと感じたのと、フィールドワークのほうが性に合っていると思ったので、恩師と一緒に、現場に行き、実証を軸に研究を重ねる企業論、産業論に取り組むことにしました。」

その言葉通り、先生の研究は現場から事実を捉え、理論を組み立てていくスタイル。

「方法的には、事例研究、現場を分析し、比較し、共通なものを発見し、違う部分はなぜ違うのかを、技術と市場特性から考えていくというやり方です。それは私の大学院ゼミの学生も同じで、自分の関心に基づいて、とにかく現場に行って見聞きし、そこで得た知識に基づき概念整理をしていくという作業を行っています。」

 

「企業類型」という新しい概念を提示

学問が重層的に発展していくさまを、先生の研究を紹介しながら見ていくと、まず日本の鉄鋼業研究として定評のある『現代鉄鋼企業の類型分析』という著書に行きあたります。そこでは、産業は多様な企業から構成されており、その多様性を規定しているのは、生産・販売・購買のあり方で、それは技術とその企業が直面する市場の特徴によって形づくられているとされています。鉄鋼業でいえば、高炉メーカー、電炉メーカー、単圧メーカー、伸鉄メーカーという、それぞれ技術も違えば、向き合う市場も違う、これらの企業が、鉄鋼業全体を構成しています。先生は生産、販売、購買すべての分野を聞き取り調査し、大企業はほぼ同質的な構造であること、だから競争すればするほど協調する、協調を出発点として新たな競争が始まる、そういう仕組みがあることを明らかにしました。その一方で、絶えず競争にさらされ、収益の不安定な企業群が同時に、別個に存在するということを、企業(構造)類型という概念で整理しました。

 

「生販統合」という学問分野を開拓

この研究に区切りがついたところで、今度は生産、販売、購買のつながりぐあいに着目し、生産・販売の連携の具体的なありようを研究、「生販統合」という概念として提示しました。

「ちょうど日本の企業の強さが海外からも注目された時期でした。日本の企業の強さはいろんな側面から語られましたが、私はトヨタ自動車などの例から、市場の変動にフレキシブルに対応できるところに競争力の源泉があると考えました。」

当時は日本的経営論など労働慣行の側面から企業の競争力に迫っていく手法が主流でしたが、先生は鉄鋼業で研究した生産・販売の連携を延長させ、鉄鋼業、自動車工業、半導体企業を並べて、その特徴をあきらかにし、『現代企業の生・販統合』を刊行されました。

この生販連携と競争力との関係は、のちにサプライチェーンマネジメントという言葉に置き換えられ、一般的に語られるようになりますが、それに先行して学問分野を切り開いたのが岡本先生です。

「私の教え子たちは、生産と販売の連携を購買まで広げたり、産業をかえたりしていろいろ深めてくれています。」

その後、先生は企業の枠を広げ、原材料から完成品に至るプロセスの研究に移行していきます。

現在は素材系企業と完成品企業の間で、モノの流れ、モノの流量と流速を変換・調整をする企業群、タイムミング・コントローラーと呼んでいますが、スチールセンター。コイルセンターなどの研究を行っています。

「ひとつの研究が終われば、新たな課題が出現し、それに取り組むことの繰り返し。バラバラに見える研究も、私の中ではずっと続いており、重層的に発展していると考えています。」

 

改めて学問は面白い

「私が一番いいたいことは、研究とか学問は面白いということ。学生でも社会人でも興味や好奇心を持って大学の門をくぐります。そしてまずは既成の概念で整理された理論を学びます。しかし、学問と現実との間には必ず説明されていない空白があります。そこをどうするか。新しい発想や方法で分析するのか、ほかの分野で発見された概念を使って説明するのか、何を、どう変えれば説明可能となるのか。社会人学生の場合は実務で培った具体性があります。私の研究では、具体性を重視して学問と現実との距離を測ることから出発します。社会人学生から見れば、既存の研究では説明しきれていない多くの事象があるでしょう。彼らには実務に基づくリアリティがあるから、それがよくわかるはずです。私の方が教えられることも多くあるでしょう。したがって、学部生以上に社会人学生の場合は、共同で考えるフィールドが大きくなるわけです。私が考える私と社会人の研究は、徹底して共同研究になる、そう思います。」

 

 

 

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